残業の心理学〜サンプル数 1 〜

ブラックな会社に入ってしまい残業をいかに減らせるか日々格闘するサラリーマンの葛藤の話。

兄の愛と挫折に心を打たれるシング・ストリート

今回はずっと観ようと思って先延ばしにしていた「シング・ストリート」について。

 

軽くあらすじ

 

 

主人公のコナーの家は父の失業し母の週3のパートで生活するも母はトニーという他の男と浮気し両親のけんかは絶えない、兄は大学を中退し引きこもり、姉は大学生。家計の厳しさからコナーは無料の高校に転校することになる。

 校則に厳しく、守れない生徒には行き過ぎた指導をする校長。いじめっ子のバリーに目を付けられる。しかしそれを見ていた明らかにナード然とした同級生ダーレンに声をかけられ友人となる。二人の帰り道でコナーは同い年くらいの少女を見かけ一目ぼれする。その少女らフィーナはモデルをしていると言うのでコナーはラフィーナと仲良くなるため、バンドをしているからミュージックビデオ(MV)のモデルになってくれるよう連絡先を伝えた。まだできていないバンドのメンバーを集めてバンドを組みラフィーナはMVのモデルを引き受けてくれる。

曲を増やしバンド活動を通してラフィーナとの絆は深まるのだが、すでにラフィーナには交際相手がいてその交際相手とロンドンへ行く計画が既にあった…。

 

兄の教え

 

 

兄のブレンダは大学でアートや音楽に興味を持ったらしく、そういったジャンルに対してやけに博識だったりする。また兄の教えは歳をとった疲れた評論家のような教えではなく、大学の頃アートや音楽に心を打たれた若者の気持ちそのままのようなフレッシュな教えを弟にする。ブレンダは弟のトニーに「上手にやろうと思うな。それがロックだ。訓練するならむしろそっちだ。」と教える。

実際にロックの肝はそこにある。オーケストラのような大規模な楽団をそろえることができないから、ビッグバンドのようなジャズバンドより小さくまとめてグループサウンズ、今日のバンドの形式になっていると聞く。更にロックは「歌も下手だけど表現をしたい」鬱屈したフラストレーションからできた。似た話ではラップなんかは更に楽器も買う金もなかった黒人の人たちがやり始めている。

外的要因にしろ内的要因にしろできる事が制限されてもその中で出来る表現を模索して新しいカルチャーができている。それは音楽に限らずアートの領域にしてもそうだし、あらゆる文化でそういった形跡はみられる。

ブレンダはロックの一番大切な根底を教えたという事になる。

ブレンダの劣等感と挫折と葛藤

ブレンダは物語の中盤に親の別居を持ちかけられ弟のトニーに対して自分の心情を吐露する場面がある。

弟の初ライブに対して「くだらないギグ」とののしる。トニーは驚いて「くだらない?」と聞き返すが「つまんないと言うかウザい」と言う。ブレンダはハッパをやめた禁断症状というがこれは嘘である。過去の鬱屈した音楽への憧れを持ちながら、弟は自分のできなかったバンド活動を前向きに少しずつ進めているのが耐えられない。

ブレンダは愛し合っていない両親の間で長男としてどう折り合いをつけて生きていくか先陣をきってきた。弟はその自分の切り開いてきた道を後からのうのうと歩いてきたに過ぎないといったやっかみを言うが、その劣等感からくるのだろう。確かにやっかみには違いないがブレンダの言う事はけだし事実であり兄としての宿命であり悲哀だろう。

この兄の悲痛な叫びは実際兄のいる私の心をえぐるものがあった。

演出として面白いのがここで兄は自分のレコード類に八つ当たりし壊すシーンがある。ここではもちろん過去の憧れへの挫折の象徴ではあるが、本作を通して本当に暴力的な人物は人を直接傷つけるか、他人の物、公共の物を傷つけている。これは暴力をふるったとしても自分の物しか手をかけないブレンダの人間性を暗に象徴している。

 

シングストリートはブレンダの話

 

 

だからこそ弟を認め弟に歌詞を書き弟を送り出す時のブレンダは今の状況を受け止めできることの中で行動し表現するそれはロックの行為に他ならない。ブレンダが弟を送り出した時ブレンダは吼える。弟はロックはブレンダの拓いた道を辿った出来たブレンダのロックでもあるのだ。


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